✔本記事の想定読者
・東京オリンピックでなぜ、海外の選手が日本の肉や卵を問題視するのだろう?
・アニマルウェルフェアは、(東京)オリンピックと関係があるのだろうか?
上記の疑問を持っている方向けの記事です。
記事の前半では、海外のメダリストが日本の肉や卵にNOを突き付けた原因について。
後半では、アニマルウェルフェア未対応の畜産物が、競技結果に与える影響ついて解説します。
✔本記事の内容
この記事では、以下のようなことが書かれています。
✔記事の信頼性
この記事を書いている僕は、オーガニックレストラン「やさいの庭 Chiisanate」を経営しています。
オーガニックと食に精通した僕が書く記事なので、記事の信頼性は高いと思います。
この記事の目次
東京オリンピックのアニマルウェルフェア問題【日本の畜産物はNO】
「日本産の食材は、安心じゃなかったのか?」多くの国民が、この報道に首をかしげたことでしょう。
「国産=安全で安心」のイメージは、メディアが作りあげた虚像です。
本記事では、「アニマルウェルフェア」や「五つの自由」といったキーワードが頭に入っている前提で話を進めます。
ここを押さえていない方は、「アニマルウェルフェアを知ってる?安全な肉や卵の必須条件だよ」を読んでおけば理解が進むでしょう
・日本の肉や卵がNOの理由【アニマルアニマルウェルフェアの配慮がない】
結局、僕たち日本人はメディアの作り上げた虚像を信じ込み、お金さえ払えば安全なお肉や卵を購入出来ると信じています。
でも、海外のメダリスト達は日本人とは全く違った考えを持っています。
この温度差が、メダリスト達の要望書となって日本に届きました。
⇒海外選手からの具体的2つの要望
海外のメダリストが、小池東京都知事と東京オリンピック組織委員会に提出した要望書があります。
そこに書かれていたのは、選手村で提供されるお肉や卵について以下の2つの要望でした。
・ケージフリー卵(平飼い卵、放飼い卵)100%の提供
・妊娠ストール(妊娠母豚の拘束檻)を使わない豚肉100%を提供
この要望を見て、「ホントそうだな」な思った方は数%かな?
意味が分かっていたら、この記事にはたどり着いていないと思います。
ちなみに、要望書には以下のようなことも書かれてあります。
選手の食べるものが、競技の結果に直結します。最高品質の栄養が、最高の結果をもたらします。飼育過程にストレスが含まれたグレードの低い栄養では、それなりの結果しか出せません。
「日本の豚肉や卵は、グレードの低い栄養で、これではメダルに届かない」と言われているのです。
⇒日本のアニマルウェルフェアの現状
要望書に書かれている「飼育過程にストレスが含まれた」とは、以下の写真のような飼育を指します。
日本で行われる妊娠ストール飼育の状況
日本で行われる採卵鶏のバタリーケージ飼育
要するに「家畜が自由に動きまわり、欲求を満たすことが一切できない状態」での飼育です。
日本は、9割方このような飼育をしていますが、海外では禁止や廃止の方向に舵を切っています。
参考:日本と海外のアニマルウェルフェアの現状比較【日本は超遅れてます】
<<参考>>
実際にアニマルウェルフェア対応の飼育をしている養豚、養鶏農家にインタビューをしていますので、以下の2本の記事を紹介しておきます。
>>平飼い卵はなぜ安全なのか?養鶏農家が語るアニマルウェルフェア
>>養豚は放牧が理想!アニマルウェルフェア実践者が語る養豚の真実
⇒東京オリンピックと過去のオリンピックと温度差
こんなことを選手が言っているのは、東京オリンピックだけ?
過去のオリンピックで使用された、肉や卵について調べてみました。
ロンドンオリンピック (2012年) | ✓放し飼いの卵or有機卵を使用 ✓豚肉は妊娠ストール不使用の肉を使用 |
リオオリンピック (2016年) | ✓ケージフリー卵を使用 ✓大手企業は自主的に、妊娠ストール不使用のお肉を使用 |
一方、2020年開催予定だった東京は・・・・
残念ながら、このような生産をしている方がほぼいないので、食材調達が困難です。
このままでは、開催国として海外選手の懸命な要望に応えることはできません。
アニマルウェルフェア未対応の畜産物は競技成績に影響
このように書くと、「たかが飼育方法だろ?劣悪な飼育環境が肉質や味、食べた人間の健康に影響があるのか?」と反論されそうです。
なので、選手の要望書の要望書から、彼らが何を懸念しているか抜粋します。
・海外選手が懸念するアニマルウェルフェア無視の影響
要望書には、豚肉と卵についてアニマルウェルフェアを無視した飼育のものを食べる影響について、具体的に書かれてあります。
要望書の全文(和訳版)は、「私たちが求めていること」をご覧ください。
オリンピック選手だけでなく、僕らにも関係することなので、理解しておきましょう。
⇒低質な豚肉は身体に影響
・閉塞的な飼育で生産された豚肉を消費すると、消費側に生理学的に決定的な結果を及ぼす
・商業用の豚肉生産で行われている豚の取り扱いは、急性のストレスを豚に与えることが分かっている
・ストレスの結果は甚大で、カテコールアミン、グルココルチコイドなどのホルモン量を増大させる
・グルココルチコイドは経口摂取するもので、筋肉と骨密度、テストステロン、免疫力の減退と関連する
・血糖値、心臓血管機能にも影響する上、説明できない精神状態の変動との関連もある
・ストレスは肉質を左右し、むれ肉や、色の暗い、硬くかさかさした肉になる
・「ストレス負荷の高い飼育方法で生産された肉質は低い」ということが明らかになっている
出典:要望書「私たちが求めていること」から抜粋
⇒卵は栄養の違いも明らかで結果の影響も明確
・放飼いで育てられた卵は、従来のケージ式飼育でできた卵よりも、高いプロテインを選手に提供してくれる
・農家の調査報告では「放し飼いで育てられた卵には約4倍のビタミンEが含まれる 」
・放飼い卵は従来のケージ式飼育の卵より、8倍のβカロチンを含む栄養素
・オメガ3 も3倍含まれ心臓血管に良く、抗炎症にも効果がある
・栄養成分の違いは明らかであり、パフォーマンスを左右し、結果への影響も明確
・最適なパフォーマンスと健康状態を維持するめには、従来型のケージで生産された卵より、ケージフリーで生産された卵が良いことは明らか
出典:要望書「私たちが求めていること」から抜粋
⇒三密で体の弱い家畜は薬剤投与
要望書には直接書かれていませんでしたが、アニマルウェルフェアを無視した飼育では、薬剤投与による抗生物質耐性菌の出現の問題もあります。
このような飼育では、コロナウイルス時にも問題になった三密状態(密閉+密集+密接)なので、免疫力が低下していて抗生物質等の薬を多用するため耐性菌が出現します。
そのお肉や卵を食べた人間は、薬剤耐性菌に感染し、病気になっても薬が効かず命を落とす事件が世界中で多発しているのです。
詳細は以下の記事にまとめています。
>>気になる!お肉(家畜)に使う抗生物質の影響【薬が効かなくなるよ】
オリンピックに求められる食材調達の基準
そもそもオリンピックには食材調達の基準があって、おもてなしの精神でどんな食材でも無条件に使用できるわけではありません。
過去に開催されたロンドンオリンピック(2012年)やリオオリンピック(2016年)においても、「持続可能な生産」や「トレーサビリティ」、「汚染リスクの管理」、「動物福祉的な基準」などが提供される食事に求められました。
今回、選手から日本に届いた要望書は、「動物福祉的な基準」の部分になります。
東京オリンピックについても、これらを踏まえて細かな調達基準を定めています。
畜産物については、「持続可能性に配慮した畜産物の調達基準」という項目で定められているので、興味のある方はご覧ください。
まとめ:食で世界から遅れをとる東京オリンピック
最後に、要望書に書かれてあった言葉を抜粋しておきますね。
東京には、世界中から最高の体験を求めて、たくさんの人がやってきます。
東京オリンピック・パラリンピックが食材の方針を改めず、世界が受け入れるクオリティに達することができないなら、畜産動物の福祉の向上を目指している世界から東京が遅れをとっていると見られるでしょう。
これは深刻な問題です。
出典:要望書「私たちが求めていること」から抜粋
残念ながら、日本のスーパーで売られている多くのお肉や卵は、海外の選手たちが拒否しているものです。
過去の五輪の高い食材調達レベルを、今の日本に求めても難しいのが現状です。
でも、東京オリンピックをきっかけに、日本はもっと真摯に「食」と向き合う必要があると思うのは僕だけでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。