お肉(家畜)に使われる、抗生物質の影響が気になる方向けの記事です。
記事の前半ではお肉(家畜)に抗生物質が使われる理由や、それを食べる人間への影響について。
後半では世界や日本がこの問題について懸念し、対策をしていることを解説します。
✔本記事の内容
✔記事の信頼性
この記事を書いている僕は、オーガニックレストラン「やさいの庭 Chiisanate」を経営しています。
オーガニックと食に精通した僕が書く記事なので、記事の信頼性は高いと思います。
気になる!お肉(家畜)に使う抗生物質の影響【薬が効かなくなるよ】
飼育中に抗生物質を多用された家畜のお肉を食べた人間は、どのような影響があるか?
結論から言うと、薬剤耐性菌の感染により抗生物質が効かなくある恐れがあります。
多くの方は、家畜には薬が使われるのを知っていて、漠然と不安になっていませんか?
この記事では、その漠然とした不安に対して、根拠を示しながら答えます。
・なぜ、家畜に抗生物質を使う必要があるのか?
農家は、薬が成長を促すメカニズムについても、その結果についても知らなかった。
食料不足で価格が高騰していたこの時代、薬の費用よりも鶏が太ることで得られる利益が大幅に上回った。
以来、「治療量以下」の抗生物質を投与するのは畜産業での日常業務となった。
ざっと推定すると、アメリカでは抗生物質の70%が家畜用に使われているという。
おまけに、抗生物質を使えば感染症を心配せずに狭い場所に多くの家畜をつめこむことが可能だ。
出典:「あなたの体は9割が細菌より」一部抜粋
僕が先日、読んだ本「あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた」に書かれてあったことです。
アメリカの畜産業界について書かれてありますが、日本はどうなのか気になったので調べてみました。
⇒抗菌薬の60%は人間ではなく家畜に使用される
驚くかもしれませんが、日本で販売される抗菌薬のうち家畜に使用されるのは約6割です。
出典:酪農学園大学 動物薬研究センターデータ「日本における抗菌薬の使用量」より引用
先ほどの書籍ではアメリカが70%と書かれてあったので、日本もアメリカと変わらず、抗生物質等の抗菌薬の使用は、人間よりも家畜の方が多いようです。
僕達消費者は、まずこの実態を押さえておく必要があります。※抗菌薬とは抗生物質や合成抗菌剤のことをいいます。
⇒使用の目的は病気の治療と成長促進
次に、この書籍で書かれていた、「薬が成長を促すメカニズム」、「薬の費用よりも鶏が太ることで得られる利益」を検証してみます。
人間で使用する抗生物質と言えば、「病気の治療」です。「成長を促す=鶏が太る」とは、僕らが知らない抗生物質の使われ方です。
日本も、このような目的で抗生物質を、家畜に使用しているのでしょうか?
農林水産省のwebサイトでは、家畜の抗菌性物質の使用目的を以下のように説明しています。
〇感染症の治療
〇飼料中の栄養成分の有効利用により、家畜の健全な発育を促す
2番目の理由に「家畜の健全な生育を促す」とオブラートに包んで解説しています。
要するに、日本でも、家畜の成長促進に抗生物質等の抗菌物質を使用していることを認めています。
⇒なぜ、人間が口にするお肉に抗生物質を投与するのか?
この問いに対する答えは、以下の2つがあります。
・家畜の多くは心身ともに不健康だから
・生産性を高め経営コストを圧縮するため
不健康な理由は、飼育環境の劣悪さにあります。免疫力が非常に弱く薬の投与なしでは出荷できないのです。
ここで解説すると長くなるので、今後、生産者の聞き取り等で別記事にまとめる予定です。
また、成長促進について言えば、早く太らせて出荷した方が、餌などの生産コストは少なくて済みます。
このような理由から日本でも、お肉となる家畜に抗生物質などの薬剤投与が行われているのです。
安全性より、経済性や効率性を重視した畜産のしっぺ返しは、結局、以下のように人間に返ってきます。
・その影響は肉を食べる人間にも!薬が効かない薬剤耐性菌の問題
実は、家畜への薬剤使用はお肉として食べる僕ら消費者に、大きな影響を及ぼします。それが、人間に薬が効かなくなる薬剤耐性菌の出現です。
薬剤耐性菌は今や、全国的な問題なのです。
こちらの動画に、薬剤耐性菌の詳しいメカニズムが説明されているので、参考になると思います【4分程度】。
全国ニュースで取り上げられるくらい、重大ニュースなのですね。
⇒【実例】抗生物質の耐性菌による人間への影響
ここではお肉となる家畜に抗生物質を与えると、人間はどうなるのか?
その影響について、実例を2つ挙げます。
1つ目の事例は、畜産業界における抗生物質の乱用について警告した記事の抜粋です。
いまから10年ほど前の話だ。
多剤耐性菌による感染症の蔓延で多くの薬が効力を失うなか、医学界は何年も前に人気を失い棚の奥に眠っていた「コリスチン」という抗生物質に目をつけ、人々の治療に使った。
ところが2015年になると、コリスチン耐性をもつ細菌が世界中に広がりつつあることが判明する。理由は畜産業だった。
中国と欧州で、豚の生育強化のために大量のコリスチンが使われていたのだ。
それ以来、中国政府は国内の畜産におけるコリスチンの使用を禁止しているが、コリスチン耐性をつくり出す遺伝子は世界数十カ国に広がっている。
もう1つの事例は、「抗生物質フリーの豚に オランダ養豚を変えた少女」という動画です【4分程度】。
養豚場を経営する男性の娘が、薬剤耐性菌によって薬が効かなくなった話です。
ヨーロッパは後述するように、世界の中でも早い段階から、家畜の抗生物質の耐性菌問題に気付き対策をとっています。
⇒家畜の薬剤耐性菌が人間に侵入する経路
抗生物質などの薬剤を投与され、耐性を獲得した細菌はどのように人間の体内に入ってくるのでしょうか?
以下に、農林水産省が作成した「家畜から人間に侵入してくる薬剤耐性菌の経路」について、イラストを掲載しておきますね。
出典:抗生物質の使用と薬剤耐性菌の発生について-家畜用の抗生物質の見直し-
なお、「食品による伝播」とは食肉や乳製品のことですが、これら以外でも、例えば、「食肉の調理過程で調理器具に、多量の耐性菌が移行する」との研究結果があるようです。
⇒薬剤耐性菌による推定死亡者
薬剤耐性菌は、世界的な脅威になっています。
2019年4月に国連は、このまま何も対策をしなければ、薬剤耐性菌による死者は2050年までに年間1千万人になり、世界経済は壊滅的な状況になると警告しています。
モハメド副事務総長は薬剤耐性は、「我われが地球規模で直面している最大の脅威の一つだ。ぐずぐずしている時間はない。」として危機感を表明しています。
ちなみに日本でも、国際医療AMRセンターは、薬剤耐性菌によって2017年に国内で8千人以上が死亡したと公表しています。
お肉(家畜)への抗生物質投与:その影響を世界中が懸念
これまで、見てきたとおり薬剤耐性菌はもはや日本だけの問題ではなく、世界中の問題です。
この章では、食肉への抗生物質投与について、世界と日本がどのように動いているのかを解説します。
・消費者運動で抗生物質不使用に変化するアメリカ企業
世界に目を向けると消費者や企業、政府が食肉への抗生物質使用について、厳しい対応を始めています。
アメリカでは、薬剤耐性菌を知った消費者が、抗生物質を使用して育てられた家畜の製品は買わない、いわゆる不買運動が広がりました。
これに対応せざるを得なくなったのは、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどの食品大手企業です。
これらの大手企業は、抗生物質を使用して育てられたお肉の使用を、段階的に廃止する方向に舵を切りました。
・WHOやEUも食肉への抗生物質投与を問題視
食肉への抗生物質投与に関する人間への影響を懸念したWHO(世界保健機関)は、2017年に農家や食品事業者へ抗生物質の使用を辞めるように警告を行っています。
また、EUはWHOの警告よりずいぶん早い段階(2006年)に、家畜への成長促進のための抗菌薬の使用を全面的に禁止しています。
さらに、EUは家畜にストレスを与えず、家畜の欲求を満たす飼育方法「アニマルウェルフェア」を重視し、抗生物質に頼らない飼育のあり方が定着しています。
・日本も抗生物質の耐性菌のやばさに気付き始めた
これら世界から遅れて、近年、日本政府としても薬剤耐性菌の対策を講じ始めました。
2018年には、豚や牛に餌に添加する2種類の抗菌薬を、薬剤耐性菌のリスクの観点から使用を禁止しています。
参考:家畜の抗菌薬、一部禁止 耐性菌が人に広がるリスク懸念(2018.11.19_朝日新聞)
農林水産省のWEBサイトでも、家畜経由の薬剤耐性について、以下のように説明し注意喚起をしているところです。
細菌が人の体内に取り込まれ、もし感染症の原因となった場合には、治療が難しくなる可能性があります。
まとめ:怖いのは抗生物質の残留より薬剤耐性菌
いかかでしたか?
漠然と「お肉→抗生物質→人体へ影響ある?」と思い浮かべていた方は、「お肉→抗生物質→気を付けよう」に変わったはずです。
基本的に、「お肉が危険」だと言われる理由は、抗生物質等の抗菌薬の残留より、むしろ、薬剤耐性菌の方だと僕は思っています。
なぜなら、残留については下の画像ような基準が、国で定めてあるからです。
※残留しないように、この基準が現場で正しく運用されていればの話ですが。
出典:抗生物質の使用と薬剤耐性菌の発生について-家畜用の抗生物質の見直し-
抗生物質不使用で育てられたお肉も、消費の選択肢に入れても良さそうですね。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。