オーガニックレストラン「やさいの庭 Chiisanate(ちいさなて)」を経営しているyoshikiです。
今年1月から発効した日米貿易協定で、米国産牛肉の関税が引き下げられ、日本で販売される米国産牛肉の価格は値下げされました。
この記事は以下のような疑問に答えます。
日本ではあまり大きく報道されませんが、EUでは1989年から安全性の問題で米国産牛肉の輸入を禁止しています。
記事を読めば、なぜ、米国産牛肉の輸入をEUが禁止しているのか、そして牛に投与されるエストロゲン(成長ホルモン)はなぜ危険と言われているのか理解できます。
米国は都合の悪くなったものをいつも、もの分りの良い日本に押し付けようとします。
その犠牲になるのは一体誰なのでしょう?
それでは早速、今日のお話を進めていきましょう。
この記事の目次
国の貿易交渉の代償は誰が払うのか?
貿易交渉は国と国の交渉になるので、話や世界観が大きすぎて中々生活レベルまで落とし込んで考えることのできない難しさがあります。
しかし、これだけは確実に言えます。
国と国の貿易交渉の代償を払うのは、私達国民なのです。
貿易交渉で「負ける国」と「失うもの」
貿易交渉は「交渉」であることが大前提で、交渉の結果、勝つ国と負ける国、守られるものと捨てられるものがあります。
極端な例かもしれませんが、自国の工業製品を守るために農業を捨てることや、相手国との信頼関係構築を重視するため、安全性を顧みない食糧や穀物の輸入を決めることなどです。
特に国民の健康に影響する「食」に関する交渉には、「私には関係ない」と決め込むのではなく、私達も国の動向を注意(チェック)しておく必要があります。
交渉がまとまった暁には、私達国民が日常的に食べる事になるからです。
安価に大量に出回る米国産牛肉
そのいい例が、日米貿易協定が今年の1月から発効し、米国産牛肉の関税が引き下げられたことです。
1月21日付の日本農業新聞によれば、「1月上旬の米国からの牛肉輸入量が、前年1月の1ケ月分の5割強に相当することが分かった」そうです。
あなたも、スーパーで今までよりも多くの米国産牛肉を目にする機会が増えたはずです。
出回る米国産牛肉が増えただけではなく、関税引き下げによって価格も大幅に下げられました。
値段が安くなった牛肉を、日本の消費者は喜ぶばかりです。
スーパーで購入するお肉はもちろん、焼肉屋さんや牛丼屋さん、ステーキ屋さんなどで食べる牛肉も恐らく安くなることでしょう。
私達日本国民は、安くなった米国産牛肉を素直に喜んでばかりでいいのでしょうか?
何か裏はないのでしょうか?
米国産牛肉の輸入を禁止するEU
日本ではあまり報じられることはありませんが、この米国産牛肉は、EUでは1989年から現在2020年の30年以上、輸入を禁止しています。
米国はこれまで輸入するように圧力をかけてきましたが、「危険性が疑われるものは輸入できない」の一点張りです。
その点、簡単に輸入してくれる日本は、米国にとって最高のお客様なのです。
EUが拒む理由に挙げる危険性とは何なのでしょう?
EUが米国産牛肉の輸入を長らく禁止している理由は、エストロゲンという成長ホルモン剤を投与しているからです。
アメリカ産牛肉の9割以上は、成長ホルモン剤を使って飼育されています。
これを投与すれば、牛が通常の飼育よりも数ヶ月早く出荷できるため、畜産農家は飼育のコスト(人件費やエサ代など)のコストが大幅に削減できます。
しかし、エストロゲンは、女性の乳がんや子宮がん、男性の前立腺がんなどの発ガン性物質の疑いが持たれているのです。
絶対に危険ではなく、「危険である疑いがある」。
そのような理由で、EUはどんなに米国が圧力(EU農産物に課徴金をかける等)をかけられても、ホルモン剤使用の牛だけは輸入しません。
※昨年、米国産牛肉の輸入が一部解禁されたようですが、成長ホルモン剤を使用していない牛肉に限っているようです。
米国産牛肉のエストロゲンの危険性
エストロゲンについては、「何となく危険」という訳ではなく、各国、色々と研究でデータをストックしているようです。
ちなみに、先のEUでは、米国産牛肉の輸入を禁止した1989年から2006年のデータで乳がんの死亡率が大幅に減少(多い国では40%以上の減少)したとの研究報告があります。
エストロゲンの残留は和牛の600倍
日本でも牛肉中のエストロゲンについて調査された、有名な論文があります。
2009年に日本癌治療学会で発表された論文「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存性癌発生増加の関連」は、米国産牛肉のエストロゲン濃度の高さを示し反響を呼びました。
この論文の発端は、乳がんなどのホルモン依存性がんが日本でも著しく増えていることと、牛肉輸入量が増えていることの間に何らかの関係があるのでは?と疑いからです。
論文では、和牛と米国産のエストロゲン残留濃度を計測して比較しています。
その結果、赤身の部分で米国産牛肉は和牛の600倍、脂身では140倍のエストロゲンが残留していた報告されているのです。
自国のホルモン剤投与は禁止なのに輸入はOK
ちなみに日本では、成長ホルモンは、農林水産大臣による動物用医薬品としての承認はなく、また飼料添加物としても指定されていないため、使用されていません(ただし、治療用等のホルモン剤使用は認められている)。
何とおかしな事に、自国の牛にはホルモン剤投与を認めていないのに、ホルモン剤使用の米国産牛肉の輸入は認めています。
日本牛はホルモン剤を使用していないので、米国産牛肉のエストロゲン濃度が和牛の600倍あったのも頷ける話です。
米国産牛肉だけではありません。
私達は、オーストラリア産の牛肉(いわゆるオージービーフ)は米国産牛肉より安全と思っている方が多いと思います。
確かに、オージービーフはホルモン剤を使用していない牛肉もあります。
しかしそれは全て、使用が禁止されているEU行きで、日本に輸入されるオージービーフはしっかり成長ホルモン剤を使用しています。
理由は先程書いた通りで、日本はホルモン剤使用の輸入はOKだからです。
あなたに知って欲しいのは、基準が厳しい国と緩い国では、貿易相手国からこのような対応をされるということです。
自国牛のやばさに気付き始めた米国人
近年、米国では自国の成長ホルモン剤の危険性に気付き、オーガニックスーパーで成長ホルモンフリーのお肉を買う富裕層が増えているようです。
さらに、成長ホルモンを使用しないだけでなく、合成農薬や化学肥料を使用しない有機飼料で育てた有機牛も人気だと言われています。
真実かどうか化学的な根拠は置いておいて、成長ホルモンが幼い女の子の初潮を早めたり、男子の乳房が膨らんだりといった報道に心配している方が増えているとか。
消費者が成長ホルモン剤使用の牛肉を避ければ、スーパーやレストランもそのような牛肉を使わざるを得なくなります。
先程、米国産牛肉の9割以上は成長ホルモンが投与されていると書きましたが、残り1割にも満たない成長ホルモン剤が投与されていない牛肉は、その希少性からか、かなりの割高になります。
それでも、この市場は米国でも確実に広がりを見せているのです。
自国民が食べる牛肉は、次第にオーガニックな牛肉になっていき、消費が落ちてきた成長ホルモン剤投与の牛は輸出で対応する米国をあなたはどう思いますか?
私には、日本が米国の余剰農産物のゴミ箱になっているような気がしてなりません。
まとめ
今日のおさらいです。
私達は、米国産牛肉が安くなったと喜ぶだけでなく、買い物かごにお肉を入れる前に、今一度これらを考え、本当に選ぶ価値があるお肉なのかを判断する必要があるようです。
最後までお読みいただきありがとうございました。